本文へジャンプ岡山市立足守中学校
■協同学習について
 〜お知らせ〜

 
「協同学習(学びの共同体づくり)」導入に対する学校長の思い
 
 2009年度に赴任した足守中学校は、心和む自然環境、地域の温かい支援また、教師集団の高い資質と熱意溢れる指導など市内でも好条件に恵まれた中学校であると実感しました。一人ひとりの生徒は皆、とても素直で授業態度も良好であり礼儀正しい学校生活を送っていました。
 しかし、あえて「『協同学習』と呼ばれる、『学びの共同体づくり』を全授業で取り入れる。」ことを2009年度7月に提案しました。
 その理由は次の3点でした。


(1)足守中学校の生徒の将来において「強く生きていく力」
   いっそう育てていきたい。
(2)学校教育活動の中で最も時間をかけて取り組んでいる「授業」を通して
   学校を活性化させていきたい。
(3)生徒一人ひとりの学習を保障し、将来に生きる「大きな学力」
   身につけさせていきたい。

「強く生きていく力」とは、さまざまな捉え方がありますが、私は人と関わる中での「学び力」だと考えています。学校生活を卒業し、社会生活を始めていくと今までのような教科書は無く、独学だけでは学習の速度や深化、増幅といった面で限界があります。そのようなときに「人にたずねる」ことを恥ずかしいと考えるか、それが学ぶ力だと考えるかの違いが大きな分かれ道になっているように思います。また、以前に比べて社会構 造が細分化されひとつの仕事を仕上げる際にも多くの人が関わり合って否応なくチームを構成していかなくてはならなくなっていると思います。そこでのコミュニケーションの力は「生きていく力」の大きな要素だと考えています。足守中学校は、穏やかで恵まれた環境にある小規模の学校です。そのため、幼い頃から友人関係が自然に結ばれており、自ら人間関係を新たに築いていく工夫や努力をする必要が無いままに温かく見守られながら、義務教育年限を終えることになりがちです。その結果、高等学校進学後に、自己表現、自己主張が不得手なために、学習や仕事をしていく中で人間関係の構築が大きな障害となることもあるようです。まさに、授業離脱や授業徘徊と言った荒廃した現状とは正反対の学校ですが、「学びの共同体づくり」は、本校にとっても最重要の課題であると考えています。

「授業」について、2012年度以降は年間1015時間(週あたり29時間)となります。例えば中学3年生では修学旅行、体育会、大掃除などの年間行事に配当する時間数は約50時間であり、教科等の授業時間 数は約965時間となります。このように、学校生活の大半は何と言っても授業時間で過ごしています。最も多くの時間をかける毎日の授業の中で、教科独自の学習内容を身につけるだけではなく、全教科で共通した学びの共同体を構築していくことができれば、素晴らしい成果が生まれることは必然的なものであると思います。これまで、多くの研究授業や感動的な素晴らしい授業を見る機会がありましたが、全教職員が全教科の全授業で継続し続けるものには、「協同学習」以外で出会うことはありませんでした。学習の主体者である授業を受ける生徒の立場に立ってみると、全教科で学習形態が共通していることはとても学習効率を高めるものだと思います。そして先生一人ひとりの魅力的な個性は、その中でいっそう輝いてくるものだと思っています。

「大きな学力」とは、文献によると感覚的なイメージから言語活動を通して伝達・蓄積可能な情報へと抽象化・普遍化した概念の世界へと発展させていくものであると書かれてあります。私が理解している考えは、一人だけで身につけた学力は、ペーパーテストでは効率的な効果を発揮することがあります。しかし、それだけでは社会の中でじゅうぶんな力にはならないのではないかということです。学生時代のテストでは、「正解」があって、そこにたどり着いたかどうかで評価されてきました。つまり、一人でこつこつと学習しその目標に近づいていくこともじゅうぶん可能だと思います。しかし、将来の社会生活の中では、正解は用意されていません。根拠となる正しい情報(知識)を精選し、順序立てて説明し自分の判断を他者に理解されうる表現力を用いて伝え合う力(コミュニケーション力)を基盤として、応用させ発展させていく力こそが大きな学力だと考えています。2007年に開始された「全国学力・学習状況調査」では、知識を問う問題(A)と知識を活用する力を問う問題(B)に分かれています。これは、経済協力開発機構(OECD)による国際的な学習到達度調査(PISA)の結果、2003年度に日本の成績が低下したことに端を発していると思います。日本の生徒には(B)の問題が不得意である傾向が強いことは、新聞報道でも知られているところです。このような中で、全授業を通して言語活動をベースとした協同学習を日々積み上げていくことは社会に出て力を発揮する「大きな学力」を育むものだと確信しています。

(H21〜26)岡山市立足守中学校  元学校長  津 川 倫 郎